日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(4) -最終回 –

前回は屋根を取り付けたところまでを紹介しましたので、今回は屋根上に取り付ける煙出しと煙突の製作過程を紹介します。これらの部品を取り付ければ機関庫はひとまず完成となります。

完成した機関庫. この後の細部の仕上げはレイアウトに設置後に実施します.
辺りを暗くして照明を点灯すると内装がよく目立ちます. 照明の光には温かみがあり, LEDではなく電球を使用した効果はあったように感じます。

屋根の取り付けが終了したらまずその屋根に取り付ける煙出しを製作します。素材は妻面がケント紙とSTウッド、側面は0.5×6㎜の桧角棒です。煙出しはその名のとおり庫内の煙を逃すたの構造物でスリット状の構造をしているため、理屈でははスリットの間から内部が見え、照明光が漏れてくる場合があります。これは屋根の角度と見上げる位置に依存し、スリットの傾き角と屋根の傾き角が同一の場合、どの範囲から内部が見えるかはスリットの間隔とスリット部材(角棒)の幅に依存します。その漏れてくる光を実際に見たときの印象を一言で言うと「見えるか見えないかは微妙」と言う様な感じですので、製作にあたっては「普通に見た時には光が漏れず、ある角度から見るとうっすら光が漏れてくる」状態になるように角度、スリット幅、使用する材料の幅を調整しました。
製作はまず所定長さに切断した角棒に同一の角棒から製作した0.5㎜厚のスペーサーを挟みながら妻板の外形に合わせて積層していきます。スペーサーは外観から見えないように少し奥にずらして接着します。この接着は木工用ボンドを使用しました。このような細かい作業は瞬間接着剤を使用した方がやり易いようにも思えますが、瞬間的に固着すると言う意味では使いにくい面もあり、手についてしまうと手も接着対象物に接着されてしまいます。その点木工用ボンドはその名のとおり?木材への浸透性が高く、密着させればすぐに剥がれない程度には接着できますのば木工用ボンドの方が使い勝手は良いとのではないかと思います。

妻板との接着作業を4箇所で行ない、大まかな形状が完成したところが下の写真です。製作途中では非常に保持がし難く色々な方向に捩れますが、とにかく妻板部分で角棒を正しい位置に接着することに注力します。

接着剤が乾燥したら、縦桟を設ける部分に角材から切り出したスペーサーを挟んで上下の部材の間隔を一定にします。これで全体の剛性がかなり向上します。

完成後、妻板部には羽目板をSTウッドにより表現した妻板を貼り重ねます。

この後、スペーサーを挟んだ位置にSTウッド製の縦桟を取り付けて塗装をします。

煙出し部には下の写真のような隙間がありますが屋根に取り付けるとこの隙間は通常使用見る位置からはこのようには見えません。

塗装が終了したら屋根に取り付けて、屋根を取り付ければ完成です。屋根は他の部分と同一の素材を使用し、頂部にはEvergreen社の帯材による屋根押さえを取り付けました。

下から見上げるるとこのスリットからわずかに光が漏れてきます。組立てや取り付け時のわずかな歪みにより全体から均一に光が漏れるわけではありませんがそれが却って実感的なような気がします。

次に煙突を製作します。本体は外径6㎜、肉厚約1㎜のプラ製パイプを使用しました。このパイプは真鍮線を購入した際のケースとなっていたもので材質は不明ですが硬さは柔らかくカッターナイフでの切断が可能です。まずは一端を屋根の角度に合わせて切断します。

反対側の断面(煙突先端部)には直径方向に2箇所、直径0.3㎜の穴を開けてコの字型の燐青銅線を取り付けます。この部品が笠の支持部材となります。

笠の製作法はいろいろ悩んだのですが、結局ケント紙を円形に切り抜き切り欠きを設けたのち切り欠き部を接着するという非常に単純かつ簡単な方法に落ち着きました。

切り欠き部は瞬間接着剤で接着し、その後エポキシ系接着剤で固定し、溶きパテを塗布して乾燥後形状を整えます。

煙突本体にはラベル紙から製作したバンドを巻きます。バンドには円周長さを3等分した位置にマーキングをして貼り付け後マーキングした部分に直径0.3ミリの穴を開けておきます。屋根に取り付け後この部分に支持ワイヤを取り付けます。

煙突の部品の完成した写真です。1本だけバンドの取り付け位置が違うためこの後修正しました。

傘の取り付けは合成ゴム系の接着剤で行いました。塗装は本体はグレー、傘は黒で塗装します。使用したのはHumbrolの#27(Sea Gray(MATT))と#33(Black(MATT))です。

傘の取り付けは合成ゴム系の接着剤で行いました。あまり強固に接着すると万一触れた時に脱落したり傘自体が破損したり衝撃で取れたりししますので固着後も剛性の弱い接着時を使用しています。完成したら煙突を屋根に取り付け、固定ワイヤーを張って完成です。ワイヤーは0.25㎜の燐青銅線を使用しました。このワイヤーは屋根に直径0.3㎜の穴を開けて固定します。

この部品の取り付けが終わるとこの機関庫はひとまず完成です。私にとって、このような日本型のストラクチャーは今回が初めての製作でしたが、思ったよりもスムーズに製作することができました。費用もパーツが少ないせいか¥3,000程度で製作できたのではないかと思います。細部の仕上げはレイアウトに配置してからになりますがそのレイアウトはまだはっきりした構想も決まっておらず、これから考え始めなくてはなりません。ただ、この機関庫の完成によりその構想が一歩進んだような気もします。

この規模の機関庫には中型機が似合うような気がしますが機関庫の屋根の傾斜がきつく、全体的に大きく見えますので大型機が入庫を置いてもそれほど違和感はありません。
庫内に佇むC12. DCC制御であれば機関車のライトを点灯させることもできるのですが・・・。

これで私が製作した北海道タイプの機関庫の紹介記事を終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。

日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(3)

前回は機関庫の主要部分(構造体)となる側壁と妻板の製作過程を紹介しましたが、今回はそれらの組み立てと屋根の取り付けまでを説明したいと思います。

組み立ての終わった側壁と妻板

組み立て前に妻板に取り付ける部材について説明します。最初は妻板の面取り部です。この部分は最初に妻板のベースとなるイラストボードを切り出す際にそこにも設けていましたが、その目的は機関庫の入り口と機関区の隙間を確認するためでした。入り口は断面に桧角棒を接着しますので下見板取り付け前に大きさを各方向に1㎜拡大し、その際にこの面取り部も切り落とします。そのため、面取り部は別部品として新たに製作する必要があります。この部品は3角形に切り出した厚さ約0.5㎜のケント紙にSTウッド製の下見板を接着し、断面に2×1㎜の桧角棒を接着したものです。下見板は幅1㎜としましたが、幅が狭いため貼りにくく、貼り付けの際の乱れも生じやすいため1㎜幅に切り込みを入れた櫛状のSTウッドをベースとなるケント紙に貼り付けた後、STウッドを外形に合わせて切断しました。妻板への取り付け時は下見板の方向を縦方向として変化をつけてあります。

入り口の扉も同様の方法で製作します。外壁に対して変化をつけるためこちらは下見板の方向を斜め45度として貼り付けました。ただ、扉に面取り部があることを考えると下見板の角度は写真と逆の方が適切であった気がします。こちらも外形に合わせてSTウッドを切断した後、STウッド製の横桟を数本追加し、断面に2×1㎜の桧角棒を接着してあります。

塗装前に完成した面取り部の部材を妻板入り口角部に取り付け、入り口扉を入り口に並べたところです。この後扉も他の部品とと同じ方法で塗装を行ないます。

続いて屋根部の小屋組みを製作します。材料は2×2ミリの檜角棒で、まず屋根の形状に合わせた型紙を用いて角棒を切断し、型紙を治具として木工用ボンドで接着します。

屋根の角度が決まったらその下部に2×2㎜の桧角材を切断した部材を接着していきます。外からは目立ちにくいところですので接着時の多少の隙間は許容しました。切断はカッターナイフで行いますが3×3㎜の桧角棒と比較すると2×2㎜の角棒の切断は容易に行なえます。

下部の柱は長めに製作し、取り付け時に長さを調整できるようにしています。ここまでの組み立ては木工用ボンドを用いましたが、形状に問題がないことを確認したら接合部に瞬間接着剤を流し、再度確認の上さらにエポキシ系接着剤を盛ってあります。

入り口のヒンジは洋白線と割りピンで簡単に製作しました。今のところレイアウト上での開閉は行わない予定ですのでヒンジ部はレイアウト(ベース板)に取り付け後に行いたいと考えております。なお、外国型セクションに設置したVollmer製の機関庫は入庫した機関車が機関庫の終端部に設けられた板を押すと扉が開閉する機構が組み込まれていましたが、運転中に使用したことは殆んどなく、機構は取り外してしまいました。ただ、自動運転で動くレイアウトを眺めていると、レイアウト上にこの様な車両以外の動きがあると面白くなるという気もします。

これらの部品の製作が終了したら側壁の組み立て作業に入ります。まず建物の横桟となる部材を2×2㎜の桧角棒より製作し、断面の中央部に0.5㎜の穴を開け、そこに真鍮線を差し込んで瞬間接着剤で固定します。

側壁上部に取り付けた2×2㎜の桧角棒の対応する位置にも0.5㎜の穴を開け、そこに横桟を差し込んで取り付けていきます。固定は木工用ボンドで行ないます。なお、側壁内側のSTウッドを貼っていない部分(塗壁とした部分)は組み立て前にHumbrol製ののエナメル塗料(#31 Slate Gray)で塗装しました。

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日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(2)

前回、構想と制作の準部について紹介しましたが、今回からは私が行った具体的な制作過程を紹介していきます。まずは機関庫の壁面と妻板の製作です。

今回は機関庫壁面の制作過程を紹介します。壁面のベースには厚さ1㎜のイラストボードを使用しました。イラストボードは表面の用紙の種類によって価格が異なるようですが、今回は何かを描くわけではないので一番安いもので大丈夫です。なお、厚さ1㎜と謳われていても実際の厚さは1.2㎜程度ありますが特に影響はありません。作例ではA4サイズを3枚使用しています。下見板はエコーモデル製のSTウッドを使用します。

具体的な製作手順を紹介する前にまず、側壁の構造をイラストで説明します。下の図は下見板を除いた建物の側壁の外側の構造です。前述のように構造のベースとなるのは1㎜厚のイラストボードです。使用する窓枠はエコーモデル製のパーツ(No.243)です。まず側壁のイラストボードに窓枠の外形寸法の穴を開け、それに厚さ約0.4㎜のケント紙を貼り重ね、窓の開口部の約0.5㎜内側に罫書き線を入れて切り抜きます。この段差が透明プラ板と窓枠をはめ込んで固定する際のストッパー兼接着部となります(窓枠とプラ板の固定は塗装後となります)。また、窓の外周には1㎜厚のSTウッドを帯状に切断した外枠を取り付けます。1㎜厚のSTウッドは現在市販されていないようですが私は以前購入した手持ちのものを使用しています。ただ、1㎜厚のSTウッドの切断面はボール紙ですので桧角棒の方が良いかもわかりませんただ完成時すると断面は殆んど見えません。

下図は内側の構造です。まず下端に3×3の桧角棒を接着し、次に窓間に柱として2×2の桧角棒を接着後、上端にも2×2の桧角棒を接着します。その後窓下の腰部にイラストボードとケント紙を貼り重ねた部材を柱と同一面になるように厚さを調整して接着したのち、羽目板の表現として縦方向に幅2.5㎜で筋をつけた厚さ0.3㎜のSTウッドを貼り付けます。窓の周りは窓を避けて厚さ1㎜厚のSTウッドを貼り付け、窓の周囲に0.5×1の桧角材による窓枠を接着します。なお、こちらは羽目板の表現として横方向に筋を入れて羽目板を表現し、腰部と方向を変えることによりアクセントをつけています。

では実際の手順を主に写真で説明します。

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日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(1)

前回のD51の紹介記事に記載しましたが、このD51をもって私の手元にある蒸気機関車キットは底をつきました。近年はこのような加工のベースとなる蒸気機関車のキットは殆んど市販されておりません。現在販売されているキットは外国製のDCC制御の機関車であれば数両購入できる高価なものばかりです。これらのキットは言わば接着剤の代わりにハンダを使用するプラモデルのようなもので、そのまま組み立てれば所謂細密機が完成しますが、各部のディテールの表現方法(レベル)を考えそれに応じた製作方法を考えるような楽しみが味わえないような気がして、なかなか食指が動きません。この傾向は電車等のキットの傾向も同様で、価格も後日製作することを考えて取り敢えず買っておくというようなレベルではありません。DCC制御による運転の楽しさを知ってしまった現在、正直日本型車両の製作はもう終わりにしようかなという気もしています。そうはいってもこのまま長年楽しんで来た日本型鉄道模型をやめてしまうのも寂しいですので、将来外国型モデルと同等の価格帯の日本型のDCC搭載機が発売されることを期待して、この機会にかねてからのもう一つの夢であったなかお・ゆたか氏製作の”日本型の機関区のレイアウトセクション、”蒸気機関車のいる周辺”のようなレイアウトセクションを作成してみようかと思い、検討を開始しました。その中で、まずはその中心となる機関庫の製作をしてみることとしました。

屋根を除いて基本部分が完成した機関庫

私は今まで日本型の建造物(ストラアクチャー)の製作経験は殆んどありません。今まで私は外国型のZゲージ、HOゲージのレイアウト(セクション)を製作してきましたが、一部を除きストラクチャーは欧州製のプラキットを使用しています。かつて日本ではストラクチャーキットは殆んど発売されておらず、それがレイアウト製作の障害になっているというようなことが言われていましたが、最近ではレーザーカットによる加工ができるようになったせいか市販の建造物キットも多く見かけるようになりました。ただ、ストラクチャーのプラキットを使用してレイアウトを製作した経験からいうと、既成の建物を使用してレイアウト(セクション)を作成する場合にはそれらを使用して自身のレイアウト(セクション)の個性をいかに出すかが課題になるような気がします。特にレイアウトが小型になる程建物がレイアウト全体のイメージを左右します。そのため私の製作した自動運転レイアウト “終着駅Großfurra” では建造物は全て自作しました。一方、今回は日本型のレイアウトセクションですので、そこには昔の自身の体験に基づく『心象風景」を再現したくなります。私が蒸気機関車のいる風景を体験したのは、その末期で決して日常的に見慣れた風景ではなかったのですが、そのような時代を知る者にとっては市販の建造物キットを使用することには抵抗があり、建物は自作したくなります。幸いなことに蒸気機関車時代の日本の建造物は、欧州の建造物に比較すれば構造が単純である(装飾があまりない)ため。手間さえかければペーパー車体を製作する要領で自作できそうな気がします。そこで、レイアウトには自分がイメージした建造物を配置することとして、まず機関庫を製作してみることとしました。
その構想ですが、北海道仕様の機関車が集う機関区ですので、機関庫は「北海道タイプ」の機関庫としたいところです。ただ、私が製作したような幹線用急客機が配置されている機関庫はコンクリート造りの扇形庫や大型の機関庫が多く、それらには一目でわかるような北海道に特徴的な形態というものはあまりないようです。ただ、機関支区や駐泊所等の木造の機関庫や大きな機関区に残っている機関庫の中には北海道に特徴的な機関庫が見られるものがあります。それらの特徴は一言で言えば「アメリカンタイプ」の機関庫です。
初期の義経号や弁慶号からわかるように、北海道の鉄道は本州とは異なりアメリカの技術を導入して敷設されましたが、車両だけではなく建造物にもその影響が見られます。この辺りの解説はTMS1970年7月号に掲載された河田耕一支の解説記事”原野の鉄道”等の記事があります。この記事には標茶の駐泊所の写真が掲載されていますが、下見板貼りで縁取りのある縦長窓はアメリカの建造物の特徴そのままです。さらに積雪地のせいか入口は扉付きで屋根の傾斜が強く、屋根からの落雪を考慮したせいかその屋根が張り出し部と一体になっていること、屋根はトタン葺きですが積雪を考慮して比較的強固な構造となっている(波板を使用したものではない)のも北海道のこのタイプの機関庫に見られる特徴ではないかと思われます。残念ながら自身で撮影した写真はありませんでしたが、機関庫の製作にあたってはこのイメージで構想をすることとしました。

構想にあたって参考にした写真(TMS1970年7月号の記事より)

以前読んだ本(ローランド・エノス著・水谷淳氏訳:The Age of Wood(NHK出版:2021)によると米国の鉄道は北米大陸の豊富な森林資源を利用して構造物を作っていたようです。言われてみればアメリカの鉄道にはティンバートレッスルがよく使用されており、米国のレイアウトにもよく登場しますし、札幌ー小樽間にあったティンバートレッスル(野幌川橋梁)の写真も有名ですが欧州の鉄道では殆ど(全く?)見かけません。明治期の北海道も米国同様森林資源は豊富であったと思われますので、鉄道施設も木材を使用した米国仕様で建設されたことは容易に想像がつきます。かなり前になりますが、外国では日本の住宅は兎小屋のように狭く、紙と木でできているといわれてるという報道が話題となりましたが、兎小屋云々はともかく、現在でも米国の一般住宅は木造住宅の比率は高いのではないかと思われます。下記は最近のModel Railroade誌に掲載されていた蒸気機関車時代の建物の製作記事ですが、北海道の機関庫もまさにこのようなタイプですし、観光地で所謂「洋館」と言われる建物にもこのタイプは多くあります。

Model Railroarder誌のストラクチャー製作記事

製作にあたってはまずは構想を図面化します。とは言ってもプロトタイプの各部の寸法は不明ですし、たとえわかってもその寸法をそのまま縮小しても実感的な(イメージどおりの)建物ができるとは限りませんのでまず建物の基本寸法を実物にはとらわれずに決定する必要があります。この辺りが車両工作とは異なるところであり、また面白さであるような気がします。日本家屋は基本単位として”1間”という単位がありますが、そもそもこのような建物にこの基本寸法の概念があるのかもわかりません。以前製作したドイツの駅舎は寸法が全く不明であったため写真から割り出して寸法を決定しましたが、今回も日本の建物ではありますが手法としては全く同じ手法が必要です。ただ、機関庫は車両が出入りする建築物ですのでまず線路間隔を決めて車両の幅、高さとの関係を見ながら決めた入り口の大きさが基準となりますので、寸法の決定は思ったより簡単であったような気がします。なお、製作にあたり参考としたのはレイアウトテクニックに掲載されている河田耕一氏の機関庫をはじめとしたストラクチャーの製作法、荒崎良徳氏の日本型建造物の製作記事です。建造物の製作法はModel Railroader誌には時々掲載され、図面も掲載されている記事も多いですが、最近のTMS誌には殆んど掲載されません。私がこの手の作業する場合の情報は殆んど1970年代のTMS誌の記事と上記のレイアウトテクニック等のTMS特集シリーズを参考にしますが、最近のファンの方は何を参考として製作しているのかがちょっと気になります。

Model Railroarder誌に掲載されているストラクチャーの図面と荒崎良徳氏執筆の日本型建造物の製作記事(レイアウトテクニックより)
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模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(7) :D51の組み立てを終えて思うこと

このブログでも紹介ししているように私は1990年頃に車両製作(日本型の鉄道模型)を離れ、その後約30年間、外国型鉄道模型のレイアウト製作をしていましたが、そして今回、久しぶりに蒸機バラキットの細密化加工を行ないました。何せ久しぶりのことですので色々苦労はしましたが、日々少しずつ組み上がっていくモデルを見るのは楽しく、楽しい時間を過ごすことができました。実はこのD51のキットが私の手元にある最後のキットでした。塗装を残してこのキットの組み立てを終了し、これを機に今まで製作してきた機関車を含め、これらの機関車でこれから何を楽しもうかと考えたのがこの記事を書くきっかけでした。なお、以下に記載することはあくまで私の私見ですので、その点、ご了解ください。

私は小学生の頃に鉄道模型を始めてから15年ほどたった1980年から1990年ごろにかけて、蒸気機関車のキット加工を行なっていましたが、車両製作の目的(動機)は ”蒸気機関車が配置されている機関区のレイアウトセクションを製作し、そこで自分が製作した車両を運転しながらじっくり眺めてみたい”ということであったように思います。一方、機関車だけでなく客車も同時に製作していたのは、いずれは(ローカル線ではない)列車が走るレイアウトを製作してみたいという思いがあったからです。このうち、蒸気機関車の機関区セクションの具体的イメージは下記の写真にあるなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”でした。

機芸出版社発行の”レイアウトテクニック”に収録されているなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”

私が当時製作した蒸機を一部を除き特定ナンバーにしなかったのはいかにもありそうな機関区の風景を再現して見たかったからです。晩年の蒸気機関車に形態は各地域ごとにバラエティに富んでおりましたが、その中には形態や装備に特徴(美しさ)がある「有名機」というものが存在しました。そしてそれらは鉄道雑誌等でよく話題となっており、模型のプロトタイプにもなっていました。ただ当時、それらが配置されていた機関区には当然「普通」の機体も稼働していたわけで、各地の有名機を製作し、レイアウトセクション上に集めてもそれは機関区の日常風景を再現したレイアウトセクションとはならず、単なる車両展示台になってしまいます。私が一部(C62)を除き、特定ナンバーではない機体を、異なる形式間でもある程度共通な装備(特徴)を持つ北海道仕様で製作してきたのは、私がレイアウトセクションで目指すのはは展示台ではなく、機関車が働くいかにもありそうな日常風景をその機関区がある地域のイメージも含めて再現したいという思いがあったからです。
その後私が車両製作から離れて外国型レイアウト製作に転向した経緯は”When is your realism level good enough?:車両製作から外国型Zゲージレイアウト製作の決断まで”に記載したとおりです。そして、その中でZゲージレイアウトのがほぼ完成した時、今まで慣れ親しんだサイズのレイアウトを製作して外国型の車両を走らせてみたいと思い、制作したレイアウトセクションが以前このブログで紹介した”ALTENHOF機関区”です。そして、そのテーマとして実際に訪れたことのない外国の機関区セクションを製作しようと決めた背景はやはり、上記の”蒸気機関車のいる周辺”の影響が大きかったと思います。その構想の中で、Zゲージレイアウトで運転中のリバース区間のスイッチ切り替えや複数列車の制御のためのキャブの切り替えの為のスイッチ操作が思ったより煩わしい作業だと感じていた私は、HOゲージの機関区セクション製作の際、”蒸気機関車のいる周辺”では機関車の留置等で2m足らずのセクションに15箇所のギャップが切ってあるという記事を読み、デジタル制御であれば配線も簡単で自由度の高い運転ができると考え、デジタル制御を採用することとし製作を開始しました。そして完成したレイアウトで機関車の運転を楽しんでおりました。

このレイアウトセクションが完成した頃、サウンド機能のついた蒸気機関車はまだ製品化されていませんでした

そんな時、ふと思い立って今まで私が制作した日本型の車両をこのレイアウト上に置いてみました。それが下の写真です。

外国型のレイアウトセクション上に置かれた私が製作した日本型蒸気機関車
機関区横の引き込み線に停車中の9600
機関庫前に停車するC57とC55. この頃D51のバラキット組立前.
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模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(6) :下回りの加工

前回までにテンダーを含む機関車の上回りについての加工方法の説明は終わりましたので今回は下回り、特にエンジン側の動輪周りの加工内容を紹介したいと思います。下回りの加工内容は概ね以下のとおりです。
1. 車輪の黒染め
2. 加減リンクの交換
3. コンビネーションレバーの両端のフォーク化
4. ブレーキテコおよびブレーキロッドの追加
5. 砂撒管の追加
では、各部について順を追って説明していきたいと思います。
6−1 車輪の黒染め
黒染めに使用する黒染め液はいさみや・ロコワークスが発売している常温黒染め液で、黒染めにはもう数十年この製品を使用し続けています。今まで、この黒染め液は客車や電車の台車の車輪に使用しており、蒸気機関車の動輪はラッカー塗装しておりましたので、今回、蒸気機関車の動輪に使用するのは初めてとなります。まず車輪を洗浄します。私は通常は車輪を含め、塗装前の処理としてクリームクレンザーで磨き洗いし、その後中性洗剤で洗浄をした後にプライマーを吹き付けていますが、動輪については外観上、万一色ムラが出るとが目立ちますので、今回はさらに脱脂を確実とするため、ラッカーシンナーで脱脂を行いました。その後説明書に従い、筆で黒染め液を車輪に塗りつけていきます。この時、理由はわからないのですが、ニッケルメッキした車輪では、そのまま黒く変色していくものと一度メッキが剥がれたような状態になり、その後黒く変色していくものがあります。特に後者の現象が起こった場合、最初なかなか黒変せず、黒変しても脱落しやすい状況が起こり、少し焦るのですが、そのまま根気よく塗布を繰り返すといずれ皮膜が形成されます。仕上がりはこの様な現象が起きなかったものに比較してもあまり変わらない様です。過去の経験も含め、車輪のメーカーによってこの現象が起きやすいメーカーと置きにくいメーカーがあるような気もしますが、詳細は不明です。

黒染めした動輪とバルブギヤー

6-2 加減リンクの交換
加減リンクはロストワックスパーツに交換します。エキセントリックロッドはキットのものを利用します。キットの加減リンクとエキセントリックロッドは段付きピンのかしめで固定されていますので、まず加減リンク裏側の段付きピンがかしめられている部分を軽くヤスリ、段付きピンを引き抜いた後そのままロストワックス製の加減リンクの穴に嵌め込んで少量のハンダで固定します。ただ、ロスト製の加減リンクは真鍮地肌のままとなっています。に今まで製作した作品ではハンダメッキにより着色しており、今回もそうしたいと考えておりますが、手元にソルダーウイックがなかったため未実施です。半田メッキはソルダーウイック入手後に行いたいと考えています。なお、この製品のリフティングリンク、リフィティングアーム、ウエイトシャフトはロストワックス製のモーションプレートと一体に造形されており、ラジアスロッドの後端は加減リンクの回転中心までしかなく、加減リンクの回転中心のネジとともじめする構造になっていますのでラジアスロッドはニュートラル位置で固定されてしまいます。今回はそのままと素てありますが、この部分も今後塗装までに修正が必要で、その際、ラジアスロッドは新作せざるを得ないと考えています。

コンビネーションレバーは先端をフォーク状に加工しました

6-3. コンビネーションレバー両端のフォーク化
コンビネーションレバーの上下、ラジアルロッドとユニオンリンクが接続される部分はフォーク状の形状となり、各リンクを両側から抱いて支持する構造となっていますので、コンビネーションレバーに上下をフォーク状にする加工を行います。今回は所定長さに切断した幅2㎜厚さ0.3㎜の帯板をキットのコンビネーションレバーに貼り重ね(ハンダ付けは中央部のみ)その後バイスに挟んで貼り重ねた板に外形をやすりでパーツと同形状に仕上げるという方法で製作しました。外形が完成したら上下にラジアルロッド、バルブスピンドルとユニオンリンクを挟んで0.5㎜の洋白線を通して固定しました。なお、コンブネーションレバーには、上部の結構目立つ位置にボルトが2本ついているのですが、今回加工を忘れてていることに気がつきました。他の作品では0.3㎜の洋白線の植え込みで表現しています。この部分は塗装前に分解した際に追加工したいと考えております。

加工部分の関節には0.5㎜の洋白線を使用しました
加工中のコンビネーションレバーです

6-4. ブレーキテコ、ブレーキロッドおよび砂撒管の追加
これらの部品は動輪押さえ版状に取り付けるブレーキシューを取り付ける部品に追加します。まずブレーキてこを両側のブレーキシュー間に渡す形で製作しますが、外観は裏返さなければ見えず、目的はブレーキロッドの保持だけですので、洋白帯板を使用し、あまり形状にはこだわらずに製作しました。帯板(エッチングパーツの縁)を所定長さに切断し、角部を少しやすりで落とした形状です。そこにブレーキロッドを取り付けますが、D型機は前2組と後ろ2組の動輪に別れていますので注意が必要です。ロッドの両端は短い方が手元にあったエコーモデルのパーツ、長い方が真鍮帯板からの自作です。砂撒管は0.5㎜に真鍮線から製作し、ブレーキシュー取付板に取り付けてあります。このパーツは曲がりやすく、変形すると車輪やレールに接触してショートの原因となりますので注意が必要です。現在、ロストワックス製のブレーキシューも各社から発売されていますが、是非砂撒管も一体に表現したパーツを発売して欲しいところです。なお、キャブ下の配管にあるレール水撒管の水撒口は第1動輪の前方にあるようですが、写真を見ても存在がわかりませんでしたので省略しました。

第一動輪のブレーキてことブレーキロッドです
D型機のブレーキロッドは2組に分割されています

以上で下回りの加工は終了です。最後にモーターを取り付け、試運転を行い問題ないことを確認します。黒染めした動輪は踏面に「カス」?が残っているせいか最初は集電不良を起こしますが、数分間レール状でスリップ運転をすると問題なく集電できる様になります。走行性に問題ないことが確認されたら、塗装前の細かい修正作業を残してひとまず完成となります。今後、今回掲載した写真で気付いた部分等を修正し、季節の良くなった頃に塗装したいと考えております。よく「アイデアは一晩寝かせ」ということが言われます。これは少なくとも私の今までの経験の中では100%正解です。同様のことは今回のキット加工にも言えることで、製作した部位を時間をおいて改めて眺めると形状のエラー、部品の歪み等に気づくことがあります。今後、塗装まではこのチェックを続け、修正を重ねていきたいと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(5) :テンダーの加工

前回までで、エンジン側の各部の加工内容の説明が終わりましたので、今回はテンダーの加工内容を紹介します。
5-1 テンダー本体の組み立て
テンダーは本体と床板(台枠)の2体構造となっていますが、組み立て前に加工が必要な部分はなく、組み立ては説説明書どおりに行いました。台車は台車枠に枕梁を取り付けるためのブロックをハンダ付けしますが、取付時にハンダが枕梁取付用のブロックのタップ部分に流れ込んでしまってもネジ部にタップを通して修正することはできませんので台車枠とブロックを十分加熱して少量のハンダを確実に流して固定することが必要です。これら本体の組み立てが終了したらディテーリング加工に移ります。

5-1 テンダー前妻
テンダー前妻には給水関係の機器、ブレーキ関係の機器、ATS関連の機器を追加します、このうちATS関連の機器を含む電気関係の配管は前妻から側面にわたって取り付けられますので後ほどまとめて説明します。
電気関係以外の機器として前妻に取り付けるのはテンダーからエンジンへの給水管とそのコック、手ブレーキ装置等ですが、これらはキットのパーツを使用しています。水面計は中央寄りにに取り付けられているものが多いようですが、たまたま水面計のロストワックスパーツが余っており、”蒸気機関車の角度”のD51の写真を見るとそのパーツと同一形状の水面計が取り付けられているテンダーもあるようなので水面計はこのパーツを取り付けました。角部の手すりは直径0.4㎜の真鍮線を使用しています。炭庫の扉前には火掻き棒とそれを置くためのブラケットを追加しましたが、このブラケットはキットに付属していた標識灯掛けを使用しました。この部品は、塗装後にやかんをぶら下げるために前妻の右側にも取り付けてあります。

テンダーの前妻側です

5-2 ATS関連の機器の追加
ATS装置は1962年頃から普及が始まり1966年に設置が完了しています。私が参考にした機芸出版社発行の”蒸気機関車の角度”には1960年代前半の写真も数多く掲載されていますので、写真の形態をチェックするときは、ATS装備前か装備後の写真であるかに注意が必要でした。国鉄の2軸ボギーのテンダーを持つ蒸気機関車では、ATS車上子はテンダーの台車間に装備されていますのでATSに関連する機器箱はテンダー側に設けられています。このテンダーに設けられた機器箱よりATS車上子への配管と後部ライト用の配管がテンダー後方に伸びています。
まず機器箱を0.3㎜の真鍮版から自作して炭庫の内側に取り付けます。次に機器箱の扉を0.1㎜の真鍮版から作成し、機器箱の前方に取り付けます。扉は両側に開く構造ですので中央部に筋を入れてあります。また扉には鎧戸状の通風口がついていますので、その部分に裏側から強く筋をつけて通風口を表現してみました。その後扉上部に水切りを取り付けて機器箱は完成です。

機器箱の扉の表面側. 鎧戸状の通風口は裏面から筋をつけて表現しました

この機器箱にはエンジン側から機器箱に電源を供給する配管と、機器箱からATS車上子及び後部のライト(ヘッドライト、標識灯)に向かう配管が接続されています。写真を見るとこれらの電線管はエンジン側の電線管よりも太い印象がありましたので、0.5㎜の真鍮線を使用しました。このうち、入力側はテンダーの床面から立ち上がっており、出力側は台枠上の継手を介して後方に向かいます。一方、このキットでは機器箱のある上部と台枠部は別体となっていますのでこれらを分解可能とするためには電線管を経路上で分離する必要があります。私はこのうち入力側については床板に設けた穴に嵌め込む構造とし、出力側については、台枠上に0.8㎜角の角線から製作した継手を設け、その上部に設けた穴に嵌め込む構造とすることにより本体と台枠を分離可能としています。同様の部分は後端にもう1箇所あり、両者の接続性が心配でしたが、作成してみると意外にスムーズに接続できます。

斜め上方から見たテンダーの前部です. 炭庫の右側にATS機器箱を取り付けました
機器箱からの電線管は台枠上の電線管継ぎ目の穴にはめ込んで組み立てます

台枠上に固定した2個の継手からの配管は0.4ミリの洋白線を使用し、割りピンで台枠下部に固定し、1本は中央部でATS車上子の方向へ配管し、もう1本は後部まで延長して先端に継手を取付けています。
5−3 後面の加工
テンダー後面のステップ、解放テコ、エアーホース、給水内はキットのパーツを使用しました。ヘッドライト、標識灯はロストワックスパーツを取付けてあります。また、電線管は0.4㎜の真鍮線、継手は0.6ミリ角の角線で製作しました。継手から各ライトに繋がる線は0.25㎜の燐青銅線を使用しています。なお、垂直に立ち上がる電線管のうち、台枠部の継手と接続される最下部の電線管は0.35㎜の真鍮線を使用し、継手の0.4㎜の穴への接続を容易にしてあります。写真を見ると角線の継ぎ手に開けた取付穴の偏心により配管に乱れが生じていますが見た目ではそれほど気にならないためそのままとしてあります。

テンダー後部です
後部の電線管は台枠の電線管継手の穴に差し込んで組み立てます

5-4 台枠の加工
台枠の非公式側には0.6㎜の真鍮線を用いた暖房管を割りピンで取付けてあります。裏面にはATS車上子を取り付けました。エコーモデルのパーツを使用しましたが、過去の蒸機製作で使用したパーツの余剰品を使用したので形態が正しいか否かは不明です。その他、ブレーキシリンダはロストワックス製のパーツに変更してあります。

テンダー床下にはATS車上子を取付. ブレーキシリンダーはロストワックス製に交換しました
前方から見たテンダーです
前方から見た完成したテンダーです

以上でテンダーの説明を終わります。なお、写真でもわかりますが台枠かぶに割りピンで取り付けている配管が歪んでいます。この部分も加工時に力がかかり変形してしまうことが多い様です。この辺りも塗装前に再度チェックすることが必要です。次回は残った下回りの加工内容を説明したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(4) :キャブとキャブ下の配管の加工

今回紹介するのはキャブ周りとその周辺の配管の加工です。この周辺の細密化は作品の細密度をあげるための主要な部分の一つです。反面走行性(カーブの通過性能)を確保するためにはカーブ上で配管と従台車との干渉を避けることが必要で、その制約の中、細密感を保ちながら配管をどのように配置するかという所謂「模型化設計」を行わなければならない部分です。それではまず最初にキャブの加工内容から紹介します。

非公式側のキャブの側面


3-0 キャブの組み立て
キャブ組み立て説明書に従って組立てましたので組み立て手順で特筆するところはありません。前妻には組み立て前に配管取り付け用の穴を加工して置いたことは第1回目の組み立て前準備の中で述べたとおりです。その他の加工として、私は下の図面に示すように、キャブの床板に配管固定用として直径0.5㎜〜1㎜の穴を多数開けておきました。その理由は以下の通りです。

キャブの床に開けた穴の図面

キャブ周りに配管を取り付けていく際、キャブ下には配管が輻輳します。取り付けていく配管は図面や写真に基づき現物あわせで曲を行ない取り付けますが、曲げにはどうしても誤差が生じます。そのため、あらかじめその配管を固定する位置に穴を開けておいても曲げ時の誤差で取り付け位置がズレる場合があります。また、他の配管のずれに応じて取り付ける配管の位置を修正する必要も生じます。その際、新たに穴を開けようとしても前に取り付けた配管がドリル刃と干渉して穴が開けられない場合も考えられます。このためこれを考慮してあらかじめこの穴を開けておき、配管取り付け時、キャブに取り付けるための配管の曲げ位置を決める際、この穴の中のどれかを選択して曲げ位置を決めれば簡単に線を穴に入れて固定できるようなります。穴径より太い線を固定する場合もこの穴があればドリルやヤスリを斜め方向から入れて比較的簡単に径を拡大することが可能です。また、主要な配管が終了した後キャブから空気分配弁に向かう作用管を取り付ける際、この穴の中から適切な穴を選択して配管を固定することが可能です。なお、使用しない穴はそのままにしておいても外からは見えませんので未使用の穴を埋める必要もありません。
3−1 キャブの加工
側面には北海道型のタブレットキャッチャを取り付けました。国立科学博物館のD51 231に倣い、縦樋はそのタブレットキャッチャを避けるように曲げてあります。バタフライスクリーンは北海道の蒸機を象徴する装備ですが、形態をよく見ると、枠はかなり細い印象です。厳寒地を走る蒸気機関車には不可欠な設備ではありますが、模型としてみた場合、あまり目立つ物ではありません。そのため、わざわざ高価なロスト製パーツを奮発する必要もないと思い、幅0.3㎜、厚さ0.3㎜のの帯板と直径0.3㎜の真鍮線から自作しました。帯板が薄いので強度的に不安でしたが枠体にすると意外に強度があり変形の心配はないようです。旋回窓も前方の視認性を確保する重要な設備ですが、は取り付けるとゴツくなりそうな気もしましたので、取り付けておりません。最近は歳のせいか、実物(プロトタイプ)についているものを全てつけるというよりはゴテゴテ感を抑えてある程度車両としての美しさにもこだわる様になったのかもしれません。

公式側のキャブ側面

信号煙管、暖房用安全弁はキットのパーツを使用していますが私が今まで製作した作品も使用したパーツは珊瑚模型店製でしたのでその点では他機とのバランスも問題ありません。吊環はD型機には大型のものが似合うような気がしましたので中央部につける大型のパーツを選択しました。テンダ水撒管はC57 135の形態を参考にして割ピンと真鍮線から製作しました。交通博物館に展示されていた頃のC57 135は2階から上部を間近に観察することができ、その点、模型ファンには有り難かったような気もします。鉄道博物館に移ってからは上部が観察しにくくなった感があります。以前紹介したEF58は鉄道博物館では壁際に展示されており、模型製作のための細部撮影には苦労しました。20系客車を製作する際も一瞬鉄道博物館に行って床下の細部の写真をことも考えたのですが、床下は見えにくい展示になっているようですのでやめました。博物館に「綺麗に」展示されている車両は屋外に無造作に保存されている車両より却って細部が観察しにくいようです。最後に話が脱線してしまいましたが、以上でキャブの説明を終わり、以下キャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管について説明します。

割りピンと真鍮線で製作したテンダ水撒管
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C57 135のテンダ水撒管

4−0 キャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管の構想
冒頭にも記載したように、このキャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管は細密モデルを特徴付けるいわば象徴のような部分と言っても過言ではありません。下の写真は第1回目の記事で紹介したなかお・ゆたか氏執筆のD51の組立て法の第1回目が掲載された1974年の1月号に掲載されたカツミ模型店製のD51の紹介記事ですが、この部分の配管は公式側は途中に調圧機のついたキャブからコンプレッサに至る配管のみで、取り付けられている部品も挽物製のドロダメのみ、非公式側はウズ巻き塵取りが取り付けられた給水管のみです。このようなモデルを見慣れていた時代の者にとっては、当時のTMSに掲載されている各種のロストワックスパーツを駆使してこの部分の配管を充実させた作品は憧れであり、まさに高嶺の花でした。ただ、当時は(今も?)ロストワックスパーツ自体も「高値の花」でした。なお、同年2月号に紹介されている宮沢模型製のC57はホワイトメタルのパーツのキャブ下の分配弁等が取り付けられています。ロストパーツの普及や雑誌に掲載される細密機の影響でこの頃から製品(完成品)の細密化が意識され始めたのかもわかりません。

TMS1974年1月号のカツミ模型店製D51の紹介記事

このような時代を経験しているものにとってはこの部分の作業には特に力が入ります。私は1軸従台車を装備する機関車のキャブ下のへ配管の追加は過去に紹介したC 57,C55で行なってきました。しかし、D51はそれらの機種とは異なりキャブ下に低い位置で車端まで伸びた台枠が存在しており、このキットはその台枠が従台車側に造形されています。これは上記キット組み立て法で解説されているアダチ製作所製のD51の従台車も同構造です。この部分は、なかお・ゆたか氏執筆のD51の組立て法では空気分配弁等キャブ下のディテールはダイキャスト製の従台車側に取り付けられ、従台車とともに首を振ります。カーブ通過だけを考えればこの記事のようにキャブ下の機器と配管は従台車側に設けた方が合理的な様な気がします。ただ、私はやはりこの言わば細密化の象徴のような部分を台車側に設けるのに抵抗があったため、配管は車体側に設けることにしました。そのための対応として公式側では空気分配弁の位置を従台車の台枠と干渉しない位置まで持ち上げ、真横から見て従台車とラップする機器は渦巻き塵取りのみとする対応をしてあります。。また、非公式側では各配管を従台車の台枠と干渉しない位置まで上方に持ち上げるとともに、キャブのほぼ直下に降りる配管をテンダー側に退避させて配管してあります。結果、配管が全体的に外側に位置するとともにテンダー各配管をU字型に曲げてテンダー側に延長することができなくなってしまいました。完成後眺めると、各配管はもう少し下方かつ内側に攻めても良かったような気もしますが、この辺りは運転性能確保上やむなしと割り切ることとしました。
4−1 配管とその引き回しに関する資料
今回全面的かつ有効に活用した資料はTMS1975年1月号に掲載されたなかお・ゆたか氏執筆の国鉄蒸気機のパイピングという記事(図)です。この記事が掲載される前にも、蒸気機関車の給水関係と空気関係の各機器の接続図はよく掲載されていましたが、このように各配管が実機の配管がどのあたりを通っているかを示したのはこの図が初めてではないかと思います。最近の雑誌でもよく掲載される空気ブレーキ関係の配管図は多分米国特許の図面をもとにしているのではないかと思われますので必要な機器とその接続は正確です。また蒸気(水)の流れを説明した図では直接機関車を動かすのに関係ないレール水撒管やタイヤ水撒管等は省略されていることが多いようです。その点、この図はそれらの配管も含め、各配管が機体のどのあたりに配置されているかがわかります。この図はD51の例で記載されていますが、D51だけでなく他の形式も含め、いろいろな機体の写真をこの図と対比させてじっくり眺めることにより、他の形式の改造が施されている機体も含めて(配管が接続される機器はほぼ同じ位置に取り付けられているため)実機のどの配管がこの図面のどの配管に相当するものかが特定できるようになり、いろいろな機体から各部の好みの形態を選択し、矛盾のない形で特定ナンバー機ではない「個性のあるモデル」が製作できるような気がします。最近模型雑誌でも蒸気機関車の各部の形態差の解説をよく目にしますが、このよような基礎的な解説もぜひ掲載してもらいたいと思います。なお、この図では電線管は非公式側にありますが、前述のようにD51 231やC57 135では公式側にあります。電気ケーブルはは水や空気配管と異なり配管の自由度が高いため機体により電線管は機体により位置が大きく異なっているようです。

TMS1985年2がつ号に掲載された記事”国鉄蒸気のパイピング”

前置きが長くなりましたが、以下、写真で加工内容を説明します。
4-2 公式側の配管
キャブからコンプレッサに至る部分のランボード下方には以下の配管を取り付けてあります。
a. キャブ(蒸気分配箱)から調圧機を経てコンプレッサに至る配管
b. 調圧機に接続される高圧頭作用管及び低圧頭作用管
c. 元空気溜め管(途中に締切コックを取付)
e. ブレーキシリンダー管
f. ドロダメから火室ノド板留弁に至る配管
また、北海道の蒸機に特徴的にみられるテンダ水温め管をランボードに沿って配管しています。この配管はコンプレッサの前方でコンプレッサ排気管と3方コックで接続され、キャブ下を通りテンダに向かいます。コックはロスト製の締切コックを使用しましたが、もう少し大型のパーツにするべきでした。また、速度系ロッドを追加してあります。
キャブ下に取り付けたのは以下の配管です
g. 元空気ダメ管から空気分配弁に至る配管
h. 列車ブレーキ管からうず巻きチリ取りを経由し空気分配弁に至る配管
i.キャブから空気分配弁に配管される作用管
これらは奥側から手前側に、取付手順をよく考えながら取り付けていく必要があります。なお、前述のように空気分配弁を従台車との干渉を避けるため実機よりも上方に取り付けましたので分配弁上方のスペースに余裕がないため配管は実物通りには接続されていません。また今までの作品では取り付けていた無動力改装装置も省略しています。速度計ロッドは0.3㎜の真鍮線でキャブ側と動輪側の本体部(ギアボックス等)は帯板、真鍮線、輪切りにした真鍮棒から自作しています。

加工の終了した公式側キャブ周辺. 空気分配弁は実機より上方に取付.

4-3 非公式側の配管
非公式側のキャブから給水ポンプに至る部分のランボード下方には以下の配管を取り付けてあります。なお、キットに付属していた.2子3方コックは長さの短いタイプでしたが、配管が従台車を避けるため実機より上方に配置されるため、バランスを考慮して長いタイプに交換してあります。
a. 給水ポンプに接続される蒸気管と排気管
b. 給水ポンプから消火栓を介して給水温め機に至る配管(ロストワックスパーツ)
c. 給水ポンプからチリコシを介してテンダーに至る配管(布巻管)
d. 2子3方コックから前方に向かうレール水撒管及びタイヤ水撒管
e.2子3方コックから水撒インジェクターに至る配管及び水撒インジェクター蒸気管
f. 水撒インジェクターから下方に向かう排水管
g. キャブからの注水機溢れ管
h. キャブからの排水管
i. キャブから給水ポンプ方向に向かう作用管2本
この中で実機の排水管はキャブからほぼ真下の方向に向かうものがありますが、今回は従台車との干渉を避けるため後方に曲げて配管してあります。この部分の布巻管は以前発売されていた福原金属製の布巻き管を使用しています。真鍮線に薄板が巻き付けてあるもので、実感的ではありますが、曲げの部分で巻いてある板がずれて巻き乱れが生じますのでをの部分はうまく修正してハンダで固定しておくことが必要です。またランボード下には上方の発電機から伸びてくるドレン管を取り付けてあります。

非公式側のキャブ下の配管.

給水ポンプ前方の連絡管(冷却管)は公式側と同じ方法で製作してあります。前方に油ポンプ箱がありますので長さは少し短くなっています。

以上でエンジンの加工はほぼ終了です。この後取り付けに歪みのある部分、加工中に変形してしまった部分を修正して作業完了となります。なお、今回のように各部を至近距離で写真撮影しじっくり眺めると歪みや変形がよく分かります。今回紹介した写真でも歪みが目立つ部分がありますが、その部分は塗装までに修正したいと考えております。次回はテンダーの加工内容を紹介したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

修正作業を残しひとまず完成した車体. 標識灯高さは上方に修正済み

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(3) :ボイラー周りの加工

前回は機関車のフロントエンドの加工について説明しましたが、第3回目の今回は今回はボイラー周りの加工について紹介したいと思います。このキットのボイラーまわりの部品は主にロストワックスパーツが使用されているのでパーツのロストワックスパーツ化は汽笛のみとなります。したがって加工は配管の追加が主な作業となります。主な加工箇所は車警用発電機の追加とその配管、空気作用管の追加になります。なお、ボイラー周りの布巻線は全てウイスとジャパン製を使用しています。
2-0 組立手順について
まず、細部を説明する前に全体的な組立手順について記載したいと思います、このキットの取扱説明書ではボイラーにパーツを取り付けてからランボードを取り付ける手順となっています。また、第1回目で紹介したなかお・ゆたか氏の組み立て記事の手順も同一の手順です。一方、私は、ボイラーに部品を取り付ける前にランボード(前部デッキの斜め部分を除く)を取り付けています。これは今まで製作のベースとしてきたボイラーとランボードがあらかじめ組み立ててきたカツミ製イージーバラキットの影響もあるかと思いますが、外観上の基準となるランボードを取り付けてから部品を取り付けたほうが組み立て中に全体的なバランスがチェックできるような気がしているためです。なお、どちらを先に取り付けてもボイラー内側へのハンダゴテのコテ先のアクセス性はほとんど変わりません。それでは以下、細部を説明していきます。
2-1 ランボード上のディテール
ランボードへの筋付けとリベット植え込み、ランボード上の点検口(点検口の蓋)を追加しています。これらはランボーどをボイラー取り付け前に行います、点検口は0.2㎜の洋白板を用い、適宜把手を追加してあります。この点検口の位置は機体によって様々で、位置が決まっているわけではないようです。この様に、実機の形態の法則性がわからず、どのような形態で製作するかに迷った場合、私はあまり悩まず、手持ちの雑誌の一枚の写真(製作中の形式とはかぎりません)に基づいて製作したり、多数の写真を見てそこから湧いたイメージで加工箇所や部材の形状を決めてしまいます。この辺りは特定ナンバー機を製作するのとはまた違った楽しみ方ではないかと勝手に思ってる次第です。

ランボード上に取り付けた点検口

公式側のランボードには前方より油ポンプ、油ポンプ箱、逆転機カバーを追加してあります。その他のパーツはキットに付属していたものです。

2−2 ボイラーに取り付ける部品の追加・交換
ボイラー本体に取り付ける部品は、非公式側の逆止弁(標準型を耐寒型に交換)、汽笛(挽物製をロストワックス製にこ交換)の2点です。また車警用発電機を追加しました。

2-3 油ポンプ箱
非公式側のランボード下に取り付けられている油ポンプ箱はロストワックス製の部品には交換せず、付属のパーツを使用しています。このパーツは真鍮ドロップ製の前側の蓋部分と、コの字型に曲げられた真鍮の部材を組み合わせる構造ですが、コの字型の部材の板厚が厚く、角が甘くなっているので薄板で作り直しました。この部材にはエッチングパーツの縁の部分を使用します。今回はエコーモデル製のATS車上子の縁の部分を使用していますが、エッチングパーツの縁は帯板より幅が広く、平面製も良好ですので保管しておくと便利に使用できます。またこのような部品を折り曲げる際は折り曲げ部に筋を彫り込みますが、私は最近、その彫り込みにはプラカッターの刃を使用しています。オルファ製のカッターの替え刃の中にはプラカッターの替え刃があり、価格も比較的安いですので消耗品的に使用でき、重宝しています。


2-4 発電機周りの配管
下の写真は発電機周りの配管です。車警用発電機は上記の入り口と電線の取り出し口が外側にあり、配管が発電機を乗り越えてCABに配管されています。また、発電機からの電線管には発電機の近傍に継手がついていますので配管の工作がが少し複雑になります。マフラーは主発電機は付属の挽物パーツを用いましたが、車警用発電機用のマフラーは挽物パーツがなかったので洋白棒から自作しました。マフラーはその下部に取り付けた真鍮線を発電機の穴に差し込んで固定しますが、強度確保のため根本を近傍の配管にも半田付けしてあります。今まで製作した作品は何回か外れてしまったことがあります。運転して楽しむ細密化したモデルではこのような対応も必要と感じます。

この発電機周りの配管は鉄道博物館に保存されているC57 135を参考にしました。国立科学博物館のD51 231もほぼ同形態であると思われます(上から観察できないので詳細は不明ですが)。配管の直径が元々オーバースケール気味ですので、このような配管が輻輳する部分では次第に配管の隙間がなくなってきます。今回も汽笛引き棒を通す位置が限られてしまい、取り付けには苦労しました。

電線管がCABに入る部分には真鍮角線で製作した継手を設けました。これもD51 231を参考にしています。

2-5 その他の配管
ボイラー上に配管を追加する(パイピングする)際に最初に行うことは各配管の線径を決めることですが、その際にはまず主要な配管の線径を決めます。「主要な」と言っても機能的に主要なものではなく、比較的目立つという意味での配管です。目立つ配管とは私の感覚では、昔のあまり細密ではない一般的な「完成品」に付けられている配管です。そして、それらについて線形に注目して写真を見ると、砂撒管>ハンドレール、ハンドレール<加減弁テコ、砂撒管<加減弁テコ、加減弁テコ等<給水管等、各配管の太さの関係のイメージがわかりますので、そのイメージに沿って線径を決めていきます。私は上記の配管について、線径を 砂撒管=0.4㎜、ハンドレール=0.5㎜、加減弁テコ=0.6㎜、給水管=0.6㎜(布巻管)としました。そしてハンドレールより細い線は直径0.3㎜、給水圏より太い線は0.8㎜、空気作用管は0.25㎜としてあります。ただ給水管はもう少し太くても良かったかもわかりません。一方、配管径の中で迷ったのは電線管です。写真を見ると太さは様々で、ハンドレールより太い機体も細い機体も存在しますが、今回は前述のD51 231やC57 135の例に倣い、直径0.3㎜の真鍮線を使用し、公式側のハンドレール下部に割りピンで取り付けました。また各配管の固定方法ですが、ボイラ側面のハンドレールの支持はキット付属のパーツを使用し、それ以外はボイラーから浮き気味についている部品は割りピン、密着している配管はu字型の帯板で固定してあります。割りピンは当初は福原金属の製品を使用し、U字型の帯板はその足の部分の切れ端を使用しました。この割りピンは各種の線径と幅のものが発売されており便利に使用していましたが、手持ちの在庫が枯渇してしまいましたので途中から幅0.3または0.4㎜、厚さ0.15㎜の帯板から作成したものを使用しています。割りピンはボイラーに開けた穴に差し込みますが、その際は割りピンの足の形状に注意が必要です。具体的には割りピンは左右の帯板の長さを変えること、穴に挿入する順番を考えて長さを変えること(最初に穴に入れる位置を最も長くし、穴に入れる順番に長さを短くする)です。これを怠ると取付時に非常に苦労することとなります。
その他の配管としては発電機からのドレン管(φ0.25)、汽笛引き棒(φ0.3)等を追加してあります。また給水管の一部には管継手を設けています。

2-6 空気作用管
空気作用間はいわば細密モデルの象徴のような存在で、かつては既製品には殆ど取り付けられてはおりませんでした。ただ、細密化加工をする場合はそれを象徴する必須の部品です。この部品はかつては完成品が市販されていましたが高価であり、なかなか手が出ないものでした。形状は製作するにはなかなか難しそうですが、私の作品の作用管はは全て自作です。そこでその製作方法を以下に示します。なお、この方法では隣接する作用管の隙間は表現できませんが、上の写真のように殆ど気になりません。モデラーにとって、空気作用管のイメージは並行して固定された作用管が継手部分で一度開いて各部へ配管されるイメージですが、実機では色々なパターンがあるようで、国立科学博物館のD51 231も継手部の開きはありません。そのほか、砂撒管へいく配管以外はボイラー下部に設置されている例もあるようですが、今回製作した作用管は典型的な5本タイプです。

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模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(2) :フロントエンドの加工

前回、組立て前の準備作業について述べましたが、今回より各部の加工内容を部位別に紹介していきたいと思います。今回はキットに付属しているパーツの組み立て前の追加工とボイラーの前端部、フロントエンドの加工について紹介させていただきます。なお、キットの取扱説明書で説明されている部分の組み立て方法は、組み立て方法を変更している部分以外は説明を省略します。
0-1. 煙突・ドーム・安全弁台座の加工
キットに付属している煙突・ドーム・安全弁台座は、そのまま取り付けるとボイラーとの取り付け部に板厚分の段差ができてしまいますので、板厚が目立たないように加工をします、加工は台座のカーブに合わせて丸やすりを当てれば簡単に修正が可能です。
0-2. ドームへの部品の取り付け
キットのドームはネジにより固定できるようになっていますが、最終的にはボイラーに固定した砂撒管とドームに取り付けられた砂撒管元栓を半田付けする必要があります。そのためその半田付け前にドーム上にディテールを取り付ける必要があります。加工するのは砂箱部と上記ドーム部で分割されているカバーの継ぎ目とボルト、後部の手すり、砂箱蓋、砂撒管元栓、加減弁ハンドル、それに蒸気ドームの上面から突出している突起(用途・機能はわかりません)です。砂箱蓋と砂撒管元栓はキットの付属ロストワックス製パーツを使用します。ドームのカバー継ぎ目は筋彫りで表現しますが、曲面への筋彫りですのでそのガイドとなる真鍮線を半田付けしたのちそれをガイドに筋彫りを行います。この方法は前回紹介したなかお・ゆたか氏執筆の製作法の中に記載されている技法です。取り付けボルトはφ0.3㎜の真鍮線の植え込み、手摺は0.3㎜の真鍮線です。なお、砂撒管元栓等、真鍮線を接続するパーツは接続部を使用する線径のドリルで彫り込んでおくことが必要です。その彫り込み深さは部位によって変えています。この砂撒管元栓のように線を近傍で固定できるものは位置決めができれば良いので浅め(線が引っ掛かる程度)、加減弁ハンドルのように手が触れた際、線が動いて外れる恐れがある部分は深めに彫り込んでいます。

ドームは取り付け前に部材を内側から半田付けした後っボイラーに取り付けています.

0-3. ボイラ下側の配管取り付け用の穴
ボイラのランボードが取り付けられる部分の近傍の配管取り付け用の穴はランボードを取り付けてしまうとランボードどドリルが干渉して取り付け穴をボイラ曲面に垂直に開けることができなくなりますので事前の穴あけが必要です。

以降、部位別に加工部分を説明します。
1. フロントエンド
まずは前方、全部デッキと煙室付近の加工です。今回はデフレクタより前方のフロントエンドについて説明します。
1-1 デフレクタ
デフレクタは珊瑚模型店製のD 51,D61用の北海道用デフレクタです。このパーツはエッチングで表面と裏面の補強用帯がエッチングで表現されている板状のパーツで、外周は自分で切り抜く必要があります。またバイパス弁の点検穴は表現されておりません。このバイパス弁の点検口はいつ頃から開けられるようになったかは不明ですが、晩年の機体では点検口がある方が一般的だったという印象がありますので今回の機体にもこの点検口を設けることとしました。北海道型を特徴づける切り詰めデフの全てに点検口が開いているかはわかりません。ただ、蒸気機関車の角度には福知山区に所属していた切り詰めデフを装備したD51 727の写真が掲載されており、この機体のデフはカバーがついているものの、常時開口してはおりません。このD51 727は切り詰めデフであるとともに集煙装置とドーム後部に重油タンクも装備しており、そのうち特定ナンバー機としてどこかで模型化されそうな形態です。このように、前方を切り欠いたデフは、北海道固有の改造ではなく、道外でも積雪のある地域では実施されていたようです。
話が脱線してしまいますが、最近のMärklin社のカタログを見ていると、プロトタイプの説明の中に、どの時期の外観かが特定した形で記載されています(”The Locomotive looks as it did around 1965”とか)。欧州のモデルは以前からメーカーに関わらずすべての製品に年代区分(Era I-VI)の表記がありますが、最近このような表記が増えてきた気がします。欧州の製品も最近細密度が向上していると感じますが、日本とは生産数量が大きく異なる量産モデルでこのような表記が増えた背景にはユーザーの細密化指向があるのでしょうか、あるいは形態を細分化?してユーザーに購入を促す販促対応なのでしょうか。
話をデフレクタの話の戻します。下の写真はデフレクタにバイパス弁点検口を開けているところの写真です。写真はは厚さ0.1㎜の真鍮版を縁取りの大きさに切り抜きデフレクタに半田付けし、その後点検工を開けているところです。この際、縁取りとする0.1㎜の真鍮版は0.3㎜の真鍮版に貼り付けた状態で切り抜き外形を仕上げた後デフレクタに貼り付けています。厚板に貼り付けなくても細かいノコ刃を使えば外形の切断はできないことはありませんが、0.1㎜の板ともなるとノコ刃が少しでも引っかかると変形しますし、ヤスリがけも難しいため、手間はかかりますがこのような方法が必要です。穴あけ終了後は外周を切断し、上部をバイスに挟んで折り曲げます。なお、このような真鍮工作を行う際、その出来栄えを決めるのは9割が罫書きの精度だと思います。決して定規の目盛を頼りに罫書き針で罫書きを行うのではなく、前回紹介した工具の中のあるけがき用のスプリングデバイダに寸法を写して板上にマーキングし、その後罫書き線を引くことが必要です。なお、このデフレクタの取り付けはデフレクタに隠れる部品の取り付けが終わった後になります(加工工程のほぼ最後になります)。

バイパス弁の点検口を開けている途中のデフレクタ.
最後に外形を切り出してデフレクタの完成です.


1-2 給水温め機とその配管
給水温め機はキットに付属していたロスト製パーツです。給水温め機からの配管は5本あり、そのうちの3本については配管が継手部までしか表現されておりませんのでその先の配管を3本追加してあります。この追加した配管にはウイストジャパン製の布巻線を使用しました。。当時布巻線は筋をつけた線材と真鍮線に薄い帯板を巻き付けた2種類の製品が発売されていましたがこの部分に使用したのは前者のタイプです。このうちの4本は温め機から下方に伸びて煙室内に入ります。キットではこの接続部に角穴と丸穴が開いていますが、実機を見ると煙室上ににカバーが装着されており、配管はそのカバーの穴から内部に引き込まれていますのでカバーを厚さ0.3㎜の真鍮版より作成し、周囲にリベットを植え込みました。。リベットは大きめ(φ0.4㎜)にしています。取り付けた配管はφ0.6㎜の布巻線ですが、温め機後方から煙室への配管はボイラー周りの配管では一番太い径の配管が使用されています。もう少し太い線を使用すべきで、布巻管にこだわったのは失敗でした。ただ、配管のほとんどはデフに隠れる位置にあり、あまり目立ちませんのでこれは不幸中の幸いでした。下記の解放テコも含め、修正することも考えましたが、そのままとしてあります。

給水温め機付近の配管. 実物も模型もデフレクタに隠れて通常眺める位置からはあまり見えません.

1-3 解放テコ受け
解放テコ受けはキット付属のパーツを使用しました。キットのパーツはエッチング製ですのでまず断面を整形し、ベースと繋がっていたランナー状の部分を整形します。この程度のやすりがけには前回紹介したロック付きピンセットが役に立ちます。パーツにはリベットが浮き出していますのが他の部分と比較して立体感がないので、やすりで削りリベットを植え込んであります。このような小さなパーツはリベットを植え込むことにより強度が増加するとともに近傍に他の部品を半田付けする際のずれ防止にもなります。ただ、今回はこの部品の取り付け位置を間違ってしまいました。実物の解放テコの位置はもっと高い位置にあります。気が付いたのはリベットを植え込んだあとで、修正するのに手間がかかりますので今回はそのままとしてあります。リベット植え込み前でしたら簡単に修正できたのですが・・・。上記の解放テコも含め、修正することも考えましたが、あまり目立たない(レイエウト上(運転時)に実感を損なう部分ではない)部分のため、そこまで実物にこだわる必要もないと考え、そのままとしてあります。私は製作中にこのようなエラーを発見した場合はすぐには修正せず、最後に全体的なバランスを見てどうしても気になるところがあれば修正するようにしています。運転時に気にならなければあまり気にする必要はないと考えています。

解放てこの位置が実物より低い位置になってしまいました. 加工中に開放テコやステップが変形してしまっていますので最後に修正します.

1-4 デッキ部手摺
デフ前方の手すりとデッキ部分の手すりは0.4㎜の真鍮線で製作しました。デッキ部分の手すりは端梁にリベットを植え込んだ帯板を取り付け支持部を表現しました。手すりはデッキの上面に開けた穴に取り付けていますので手すりと取り付け部は繋がっておらず、よく見るとおかしいのですがすぐ上に解放テコがありあまり目立ちませんのでこのような構造としました。なお、この手摺のような手に触れやすい部分の線材は燐青銅線や洋白線といった真鍮線より曲がりにくい線を使用するのが良いと思います。デフに付けた手摺も強度確保のためランボードに穴を開けて固定しています。

1-5 スノープラウ
今回使用したスノウプラウは天賞堂製の電気機関車用を使用しています。今までは自作していたのですが、今回は手持ちのパーツを使用しました。実機のスノープラウはもっと後退角がが大きく、両端がデッキ側面のステップより後方に位置しています。また、また北海道の蒸気機関車に取り付けられているスノウプラウは端面に行くに従って上下寸法が大きくなる形状のものが多いようですが、スケール通りの形状では両端が先輪と干渉するとともに、後退角が小さいの両端の大きさが目立ち、ゴツくなってしまうにではないかと考え、割とのっぺりしている天賞堂製の電機用パーツを流用しました。なお、パーツには両端にステップ取り付け用のスリットがありますが各線で塞いでやすりで仕上げてあります。スノープラウ取り付け板は0.3㎜に真鍮版から切り出したもので、外側に帯板を半田付けしてアングル状になった形状を表現してあります。

先輪との干渉を考えスノウプラウの後退角は小さくしてあります.
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